アンリ・ド・モンテルラン『闘牛士』
フランス人少年が闘牛に夢中になり、スペインで闘牛士として成長して行く様子を描いた小説。
牛と闘牛士との命がけの対決の様子などが、生き生きと描かれ、堀口大學の訳も味わいがあります。
モンテルラン(1896-1972年)は、フランスの小説家・劇作家ですが、この本には彼の宗教観も色濃く反映されています。
古代のミトラ(ミトラス)教に見られる牛崇拝祭儀であった闘牛が見世物に変化していく過程や、キリスト教がいかにミトラ教の影響を受けているかという点について、かなりのページを割いています。
ミトラ教は、1世紀から4世紀にかけてヘレニズム・ローマで絶大な支持を集めた宗教ですが、モンテルランは主人公であるアルバンをミトラ教とキリスト教の融合のシンボルとして描き、まるで宗教の解説書と錯覚させるようなユニークな小説でもあります。
シャーロット・マクラウド『牛乳配達退場』
バラクラヴァ農業大学のシャンディ教授が、「牛乳配達」と仇名される変わり者の教授失踪事件を解決する娯楽ミステリ。シャンディ教授の妻ヘレンや、方向音痴のミステリ作家も巻き込んで、ドタバタ劇が繰り広げられます。話の展開も面白いのですが、全編にユーモアがちりばめられ、最後まで飽きさせない作品です。カナダ生まれの作者マクラウド(1922-2005年)は、アメリカに移住後、広告会社で働きながら執筆活動を続け、シャンディ教授シリーズで人気を博した作家です。このシリーズは、1作目の『にぎやかな眠り』から10作目の『牛乳配達』まで、どれもユーモアたっぷりの楽しいミステリになっています。
(宮城純一)
ブラジル北東部の牛祭り「ブンバ・メウ・ボイ Bumba Meu Boi」
ブンバ・メウ・ボイはブラジルの伝統的なフォルクローレのお祭りです。
Boiは牛、Meuは私の、Bumbaはお尻。ボイ・ブンバとも呼ばれます。
一度死んで蘇るオスの牛にまつわる物語をベースに、太鼓を叩きながら踊り語られるそうな。
物語の種類は地域によって様々だけれど、主な登場人物は、オスの牛(演じる人は、手の込んだ衣装を着る)、カティリナ(醜い妊婦、女装した男性が演じる)、牛の世話をしているけれど牛を死に至らしめる原因を作ってしまうカウボーイ、そして聖職者、裕福で権力を持った牛の所有者、そして音楽の魔法が牛を生き返らせるという。
小さな田舎町のお祭りから、都会では大きなフェスティバルとして、様々な形で開催されます。
へベンチスタ 吟遊詩人・ジョゼ・ピニェイロ
私の友人、ジョゼ・ピニェイロをご紹介します。
ジョゼは、1955年ブラジルのベレンに生まれ、20代前半まで ブラジル北東部に現存するヘベンチスタ(吟遊詩人)の研究と演奏活動を続け、1985年日本に留学して、同じくブラジルからの留学生で生涯のパートナーとなるユミさんと結婚しました。
日本では、プラッサ・オンゼというライブハウスを中心に活動。「ゼ・ピニェイロ&BOTO」を結成し「サウージ・サウダージ」(FM-Jwave)のテーマソングを担当する他、各種エコロジーイベント、異文化交流イベントで活躍。
小学校で国際理解教育をも担当。92年には朝日ジャーナル特派員として地球サミットを取材しました。
東北のサンバ仲間とも昔から仲良く、仙台や山形や秋田にも何度か来てもらいライブを行いました。ズバリ「ボイ・ブンバ」は、ライブでよく演奏していました。
そして、ユミさんと2013年に出版した本には、ジョゼの弾き語りCDが添えられ、 ボサノヴァやブラジルの民謡の他「黒い顔の牛」Boi da Cara Ptraという子守唄が紹介されていたのでした。
(荒川弥男)
マリー・ハムズン 石井桃子訳『牛追いの冬』
ビアトリクス・ポター『ピーターラビットのおはなし』、バージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』など、知らず知らず彼女の翻訳には触れているものです。
彼女が最初に手がけた翻訳は『クマのプーさん』でした。大学在学中から、菊池寛のもとで外国の雑誌や原書を読んではあらすじを書くアルバイトをしていたという石井さんが、その後編集者となって親交をもった犬養健(たける)家で、1933年(昭和8年)のクリスマス・イブに、西園寺公望が犬養家の子どもにクリスマス・プレゼントとして贈った「プー横町にたった家」の原書“The House at Pooh Corner”に出会ったことが、翻訳のきっかけとなったのでした。
「牛」ということですぐに思い浮かんだ本は、石井さんの翻訳による、マリー・ハムズン『牛追いの冬』でした。原作は1933年にノルウェー語で発表されました。その英訳『A Norwegian Farm』が和訳された2巻めとして出版された1冊です。
牛を想う子ども心、当時のクリスマスの様子、ノルウェーにとってのコーヒーというものなど、物語じたい、とても温かなものでしたが、石井さんの日本語の選びかたそのものに、あじわいがありました。
中谷千代子さんが描かれた挿絵もまたとても温かで、この本を魅力溢れるものにしています。
(佐藤聡子)