ブックトークの会 「白と黒」

 妹尾河童『河童が覗いたインド』

舞台美術家である作者が1978年と1983年にインドを旅し、そこで見た観光名所、ホテルや人々の営みなどを緻密なイラストで描いた本です。文字も全て手書きで、インドにぴったりな感じです。

「聖なる牛」の章では、我が物顔で通りを歩く牛や、燃料にするために牛糞を壁にペタペタ張り付ける様子などが、イラストと共に丁寧な文章で紹介されています。宗教から見た牛の存在や、人々の生活と牛との関わりなどについて、深く知ることができる内容となっています。

 たまたま、私も同じ時期にカルカッタ(現在のコルカタ)に旅していましたので、この本を読むと、当時の記憶が蘇ってきます。

私が泊まっていたのは水道も無い安宿でした。そこでは、この本のように外の壁に張り付け乾燥させた牛糞を燃やし、配達された水を沸騰させ、素焼きの壺に入れて冷まして水を飲んでいました。驚いたことに、電気もガスも全く使わないのに、冷たくて美味しい水でした。

この本では、インドの代表的な観光地を網羅し、しかもガンジス川で沐浴するなど実体験に基づいて紹介していますので、わくわくしながらインドを一周したような気分になれます。価値観を押し付けることなく、生き生きしたインドをそのまま描いた、楽しさ満載の本です。

 

円山応挙「雪松図屏風」

「白」というテーマで私が印象に残っている絵画は円山応挙の「雪松図屏風」。数年前に仙台市博物館で開かれた特別展「樹木礼賛―日本絵画に描かれた木と花の美―」で衝撃を受けたのが、雪を被った松を描いたこの作品です。

金泥と墨の2色だけ用いてこれだけのリアルさを表現していることにも驚かされますが、何より凄いのは、枝や幹に積もった雪を描かないで塗り残していることです。

紙の白地を見事に生かした円山応挙の技に感嘆するばかりです。

描かないということで思い出すものに、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」という映画もあります。アメリカのテキサス州を舞台にしたロードムービーで、音楽は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の仕掛け人でもある ギタリスト、ライ・クーダ-が担当しています。

映画の背景にはライ・クーダ-のギターサウンドが流れ、映像にもぴったり合っている感じなのですが、映画のクライマックスで何と、無音状態になります。

それまで絶えず流れていた音が無くなることで、感動的な場面がより深まる感じがするのです。

音の見事な使い方に感嘆した映画でした。

(宮城純一)


Retrato Em Branco E Preto/白と黒のポートレート

白と黒といえば、そのままズバリ。ブラジル音楽でもピカイチの名曲をご紹介。タイトルは「Retrato Em Branco E Preto/白と黒のポートレート」。 

 数多くのブラジル音楽を作曲し編曲しピアノ弾き語りで歌いレコーディングした巨匠、アントニオ・カルロス・ジョビン(通称トム・ジョビン)が作曲した原題「Zingalo」(ジプシー)という曲に、シコ・ブアルキが後から詩をつけて1968年サード・アルバムで発表しました。おちついたシコの歌声はじっくりと心に滲みます。

 当時はブラジル軍事政権、世界的なボサノバのブームも一段落し、ブラジル軍事政権は音楽やアートや文学にも検閲を強めて、大衆を締め付けていきますが、そんな情勢に飽き飽きした大衆から明るいキャラクターで絶大な支持を得ていたのが歌手エリス・へジーナでした。

 1974年ロサンジェルスで、ジョビンはエリスと共にアルバム「ELIS&TOM/ばらに降る雨」を録音します。軽妙なピアノとおどけた歌声で二人がデュエットするジョビン自身の作詞作曲「3月の雨」とは正反対に「Retrato Em Branco E Preto/白と黒のポートレート」は、ジョビンの重厚なアレンジでエリスがしっとりと歌い上げます。白黒写真を見つめ別れた人を思い愚かな自分を見つめる、そんな内省的な歌詞が夜の帳に浮き上がって見えます。

(荒川弥男)


画集 グランドマア・モーゼス

牛が描かれている絵は、数多ありますが、「白」というキーワードも加わったとき、ふと思い出したのは、学生時代にすっかり虜になった「グランマ・モーゼス」こと、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)の作品。

とかくアカデミックな立場の人たちは「素朴派」だとか「ナイーブ派」だとか括りたがりますが、モーゼスには、とんだ迷惑なことだったでしょう。しいていえば、よい意味で「フォークアート」ではあるかもしれません。どれほど絵が人気を博すようになっても、農村での質素な生活をけっして変えず、アトリエもとくにない自宅で描き続けました。


私が惹かれるのは、モーゼスの作品が、農作業をしたりジャムを炊いたりバターを作ったりする暮らしの中で、自然と創造された、オリジナルのスタイルだというところ。

彼女の訃報をうけたケネディ大統領は「モーゼスの絵と生涯は、アメリカという国の根源が、田舎に、そして辺境にあることを思い出させてくれました」と語ったといいます。


モーゼスが長く暮らし、70歳代になって絵を描き始めた地でもあるニューヨーク州イーグル・ブリッジは、ヴァーモント州境から程近いところ。日々自然が表情を変え、雪の季節が長い地のようです。

モーゼスの絵のテーマは、自身が熟知し一生愛した農村での季節ごとの行事、自身が生涯観察を続けた四季折々の風景でした。

そしてモーゼスは、雪景色の中に、さらに白い家を描くことがよくありました。『厳寒の日』,『雪が降る、おぉ雪が降る』,『大吹雪』,『雪に閉じ込められて』など、この一冊に掲載されている白い絵も、彼女ならではの温かい世界です。


追記
そういえば、モーゼスも、前号で取り上げた石井桃子さんと同じく、101歳までご存命でした!

(佐藤聡子)


荒川弘(あらかわ ひろむ)「百姓貴族」

今回ご紹介しようと真っ先に思い浮かんだのは、実はかねてよりテーマによっては紹介しようとチャンスをうかがっていた作品、小野不由美さんの「十二国記シリーズ」です。この中で、2019年に出た最新作がまさに「白銀の墟(おか) 玄(くろ)の月」というシロクロなタイトルでした。また、物語の舞台となるのも、この世界の中で最も冬の厳しい凍った国と、雪の多い今年にご紹介するにピッタリだったのです。

……が、これをご紹介するにはちょっと私の情熱が振り切れてしまうかもしれないなと思い、さらにテーマにもっとピッタリだと思った作品がありますので、メール参加の今回はこちらをご紹介します。十二国記シリーズは、ぜひ参加した際に愛のたけをお聞きいただけると嬉しいです。

さて、相変わらず前置きが長くなりましたが、ご紹介したい作品は、人気アニメ作品「鋼の錬金術師」や、実写映画化もされた「銀の匙 Silver Spoon」でお馴染みの荒川弘(あらかわ ひろむ)さんの漫画「百姓貴族」という作品です。作者の荒川さんは北海道のご実家で酪農も畑作も行う農家を経験された漫画家さんで、作品内に登場する自画像はホルスタインの姿をしています。この「百姓貴族」は、そんな農家時代の経験を面白おかしく書いた農家エッセイ漫画です。

日本の食糧倉庫・北海道で農家を担う苦労話や、東京で感じる農家とのギャップなどを面白おかしく描いているのですが、1巻の序盤に登場するのが、このエッセイコミックを描くにあたっての担当さんとの打ち合わせのシーン。農家は大変だけど「美味しいね」の一言で頑張れる、だけど…「牛乳って、飲んだら太るんでしょ」、「お金払ってるんだからいただきますなんて言わなくていいでしょ」なんて話を聞くと―――

『食料供給ストップして あいつら飢え死にさせたろかいと思います♡』(目がマジ)

というセリフ。紙面上はホルスタイン姿の荒川さんが小花を振りまきながら毒を吐く姿がコミカルに表現されているのですが、このマイルドな毒こそこの作品への中毒をいざなうのだと思います。

先に出した「太る」や「お金払ってるんだから」という極端な消費者像だけではなく、自分にも当てはまる行動や、疑問に思っていたこと、農家あるあるだという“理不尽”など、すっかり思い込んでいた価値観や、純消費者の一方的な視点が、読むごとに覆るようでまさに目からうろこ、ですがこの作者のさすがの腕で、真面目すぎず重すぎず単純に面白い作品として読めるところが魅力的です。いえ、ほとんどはクスっと笑えるエピソードです。

好きなエピソードもいろいろあるのですが、その中から一つ。農業高校時代に遭遇した自動販売機の缶ジュースのお話を。栄養価の非常に高いマメ科牧草として知られ、農業高校生にもとにかく認知度の高い「アルファルファ」を使ったジュースを見て、ざわざわとする生徒たち。チャレンジャーな男子生徒たちが飲んでみるのですが、飲みきれないほどのまずさで何人もギブアップ、というお話。そのうちの一人の「食い物を作る農高生として屈辱」や、荒川さんの「食べざかりの農業に携わる者が消費期限内の食品捨てるの初めて見た」というモノローグが、なんともシュールながらグッとくるお話です。

(小野寺琴香)


Happy Toco House のキッチンから……
          愛をこめて

「牛」「白と黒」にちなんだメニュー

♬恵方巻きをイメージした海苔巻きを二種

 一つは、牛肉と牛蒡(ゴボウ)を、ちょっと甘辛く煮て
 もう一つは、セロリを柚子胡椒漬けしておいたものに、ゴルゴンゾーラ・チーズ(牛乳から作られることはもちろん、模様がホルスタイン柄にも似ている)をあえて

 「白と黒」から、ご飯の白と海苔の黒のコンビネーション ということで…

恵方巻きは、その年の恵方の方角を向いて、無言でかぶりつくものという
世間では飲食をともなう会食を避けることがふさわしいとされる中、感染症対策としても、適切と考えた


♬白黒ゼリー

前回は牛乳ゼリーにコーヒーゼリーだったが、今回は、白出汁で味付けした豆乳を葛粉で固めたものに、黒豆をのせて

(榊原光裕)